給与計算代行とは
給与計算代行とは、企業がその給与計算のプロセスを外部の専門業者に委託（アウトソーシング）するサービスです。給与計算の一連の業務は、従業員に支払われる給与の計算だけでなく、税金の源泉徴収、社会保険料の計算、給与明細の作成と配布など、多岐にわたる業務を含んでいます。給与計算代行（アウトソーシング）サービスを利用することによって、企業は人事部門の負担を大幅に軽減し、他の重要な業務にリソースを集中させることができます。
給与計算代行サービスの主な委託内容と業務プロセス
給与計算業務内容（概要）
- 給与の計算：基本給、残業代、手当、ボーナスなどを正確に計算
給与計算代行業者は、従業員の基本給、残業代、手当、ボーナスなどを正確に計算します。これには、従業員の出勤状況、時間外労働の記録、その他の給与に影響を与える要素を総合的に考慮して計算されます。 - 源泉徴収の管理：国の税法に基づき、従業員の給与から適切な税金を計算・徴収
従業員の給与から適切な税金を計算し、徴収する責任が代行業者にあります。これは、国の税法に基づき、細心の注意を払って行われます。 - 社会保険の手続き：健康保険、厚生年金保険、雇用保険などの保険料を計算し、徴収・納付
社会保険料の計算と徴収も給与計算代行の一環です。これには健康保険、厚生年金保険、雇用保険などが含まれ、適切な保険料が従業員の給与から差し引かれ、関連機関に納付されます。 - 給与明細の作成と配布：給与の内訳、税金、保険料の詳細を含む給与明細を作成
給与計算が完了した後、従業員ごとに給与明細が作成されます。これには給与の内訳、税金、保険料の詳細が含まれ、従業員に対して透明性を保つための重要なドキュメントとなります。 - 年末調整：年内の税金の精算
年末調整は、年間を通じて源泉徴収された所得税と住民税の適正な額を確定させるための調整プロセスです。給与計算代行業者は従業員から年末調整に必要な情報を収集し、所得控除（例：生命保険料控除、住宅ローン控除など）を考慮して正確な税額を計算します。この結果に基づき、過不足があった税額の調整を行い、最終的な給与から適切に調整します。 - 社会保険料の算定基礎届の提出：保険料計算の年次更新
社会保険料の算定基礎届は、毎年7月に提出されるもので、従業員の報酬の変更を反映させるために必要です。この届出により、従業員の健康保険や厚生年金保険の保険料が再計算されます。給与計算代行業者は、収入データに基づいてこれらの届出を準備し、正確な保険料の計算と適切な手続きの実施を支援します。 - 勤怠管理：勤務時間の正確な記録と報酬計算
勤怠管理は、従業員の出勤、欠勤、遅刻、早退、時間外労働などの勤務状況を記録し管理するプロセスです。給与計算に直結するため、代行業者はこれらのデータを精密に処理し、給与計算の基礎データとして使用します。正確な勤怠データは、適正な給与支払いだけでなく、労働法規の遵守にも不可欠です。
給与計算代行サービスを利用する場合の「給与処理」「賞与処理」の業務フロー（図解）
給与計算代行サービスを利用する場合の「給与処理」と「賞与処理」の業務フローについて、フロー図にて解説。給与計算代行（アウトソーシング）サービスを提供企業と、給与計算代行サービスを利用する企業様とのやり取りを詳しく解説いたします。
給与計算処理の業務フロー
給与計算代行サービスを利用する場合の、「勤怠の締め日の翌日」から「給与支払い日」までの「給与計算代行サービス社」と「サービス利用企業様」のやり取りを詳しく解説いたします。
業務フローは弊社が提供する給与計算代行サービス「ピタット給与」での業務やり取りを例として解説しています。
賞与計算処理の業務フロー
給与計算代行サービスを利用する場合の、「賞与支払い日」から逆算して何日まえからどのような処理が行われるのか、「給与計算代行サービス社」と「サービス利用企業様」のやり取りを詳しく解説いたします。
業務フローは弊社が提供する給与計算代行サービス「ピタット給与」での業務やり取りを例として解説しています。
※それぞれの業務フローは一例となります。実際の業務量や業務の複雑さによって作業日数などは変わってきます。あくまで一例としてご認識ください。
給与計算業務内容（年間スケジュール）
給与計算代行サービスの年間および毎月の業務スケジュール
年間を通しての主な業務
- 4月: 給与改定、組織改編、社会保険の手続き
- 5月: 住民税の年度更新準備
- 6月: 賞与計算
- 7月: 労働保険の年度更新、社会保険料の算定基礎届の提出
- 10月: 年末調整の準備
- 11月: 年末調整書類の回収
- 12月: 年末調整の実施、賞与計算
- 1月: 法定調書および給与支払報告書の提出
毎月の定例業務（例：月末締め当月25日支払の企業）
- 月初: 社会保険の手続き
- 中旬: 給与計算
- 毎月25日の3営業日前: 銀行送金資料作成、給与明細書作成
- 毎月25日: 給与の支払日
- 下旬: 月額変更届の資料作成
１年間を通しての特別な業務
- 年始: 新年度の法改正や保険料率の変更への対応
- 年末: 社員の年間所得の確定と税額の調整
これらの業務は、法的要件の遵守と従業員への適切な給与支払いを確保するために、厳密にスケジュール通りに遂行される必要があります。各月における特定の作業やその期限は、企業の運営を円滑にし、法的なトラブルを避けるために重要です。
※注意※
社会保険手続きの代行業務は社会保険労務士の独占業務となり、資格を持たない企業が代行業務を行うことは法律で禁じられています。代行企業が社会保険労務士事務所であったり、社会保険労務士事務所と業務提携を行ったりしていれば問題はないでしょう。
どちらでもない企業に委託する場合、社会保険手続き業務の委託は、別途、社会保険労務士事務所を探すか、社内で行う必要があります。給与計算代行業務をアウトソーシングする場合は、社会保険手続き業務の体制についても、しっかりと確認しましょう。
給与計算代行を使うメリットとデメリット
給与計算代行のメリット
時間とコストの節約
給与計算は多くの企業にとって複雑で手間がかかる業務です。給与の計算、税金の準備、社会保険の手続きなど、多くの細部に注意を払う必要があります。これらのプロセスを専門業者に委託することで、企業は人事や経理部門の負担を大幅に軽減し、これらの部門のスタッフを他の戦略的な業務に配置することができます。例えば、従業員の育成や業務効率化のプロジェクト、新規事業の開発など、企業の成長に直結する活動により多くの時間とリソースを割り当てることが可能です。
また、専門スタッフを常勤で雇用するコストも削減できます。給与計算業務には専門知識が必要であり、適切なスキルを持ったスタッフの採用と維持が必要となります。
しかし、このようなスキルを持つ人材を採用・維持するにはコストがかかります。特にSMB企業においては、代行業者に委託した方がコストを抑えられる傾向にあります。
エラーの削減
給与計算におけるエラーは、従業員の満足度低下や法的リスクに直結する問題です。計算ミスやデータの入力間違いは、従業員からの信頼を失う原因となりますし、税金や社会保険料の誤りは罰金や追徴金を招くことがあります。専門業者は最新の労働法規、税法、社会保険法に精通しており、これらの知識を活用して正確な計算を保証します。また、専門業者は最新のテクノロジーを用いたシステムを導入しており、これにより人的ミスが減少し、計算の正確性が向上します。給与計算のプロセス全体にわたって厳格なチェックを行い、エラーの可能性を最小限に抑えることができます。
セキュリティの向上
給与情報は従業員の個人情報を含む非常にセンシティブなデータです。この情報の漏洩は、重大なプライバシー違反となり、企業の評判に甚大なダメージを与える可能性があります。
特に、一般職の社員に給与計算を任せることは、別の意味でもリスクがあると言えるかもしれません。その担当者の気分などにより、特定の人間の給与情報が故意に社内、社外に漏れる可能性もリスクとして考慮しておく必要があります。
一方、給与計算代行業者は、データセキュリティに関する高い基準を設けており、先進的な暗号化技術やアクセス制御システムを導入してデータを保護します。これにより、企業はデータ漏洩のリスクを大幅に減少させることができます。さらに、データ保護に関する法規制の遵守も業者が担保するため、企業は安心して業務を外部に委託することができます。
これらのメリットにより、給与計算代行は多くの企業にとって魅力的な選択肢となっています。時間とコストの節約、エラーの削減、そしてセキュリティの向上は、特に人材と資源が限られている中小企業にとって、経営資源をより効果的に利用するための重要な手段となります。
給与計算代行のデメリット
コントロールの喪失
給与計算を外部に委託する最大のデメリットは、プロセスの透明性が失われることです。企業が直接給与計算を管理しないため、プロセスの各段階を把握しにくくなります。これにより、必要に応じて迅速な調整を行うことが困難になる可能性があります。例えば、急な給与変更や例外的な手当ての支払いが必要な場合、外部業者に依頼して調整する時間が必要となり、結果的には処理の遅延が生じることがあります。また、内部の担当者が直接関与しないため、ミスや誤解が発生した際の原因究明や対応が遅れることもあります。
対策案：
給与計算の工程や、それぞれの工程に掛かる日数などを、代行業者に確認して把握しておくことで緊急対応のデッドラインなどを意識し、緊急の給与変更や例外的な手当ての支払いが発生しそうな場合いは先回りして業務を進めることで、これらのリスクを限りなくゼロにしてきましょう。
コミュニケーションの問題
給与計算代行サービスを利用する際の潜在的なデメリットとして、コミュニケーション上の行き違いが挙げられます。情報伝達に時間を要することがあり、特に緊急対応が必要な問題が発生した場合、迅速な対処が難しくなる可能性があります。また、文化的な相違や業務プロセスの違いにより、期待するサービス水準が満たされないこともあるでしょう。このような事態は、従業員の信頼を失うリスクにもつながりかねません。
対策案：
企業としては、外部業者との明確なコミュニケーションチャネルと、定期的なミーティングを設けることで、この問題に部分的に対処することが可能です。
依存関係の形成
給与計算を外部業者に完全に依存すると、自社での給与計算能力が低下する可能性があります。これが長期にわたると、自社で給与計算を行うことが困難になるだけでなく、業務知識が失われることにも繋がります。また、外部業者が倒産したり、契約を更新しない決定があったりすると、新たな代行業者を急いで探さなければならない状況に直面することがあります。これは、業務の連続性を損なうリスクとなり得ます。
給与計算代行で想定されるコスト削減例
人件費の削減
給与計算代行を利用することで、専門の給与計算スタッフを内部で雇用する必要がなくなります。これにより、直接的な給与コストだけでなく、福利厚生費や担当者の退職などに伴う採用費や教育研修費などの関連費用も削減できます。特に小規模または中規模の企業にとって、給与計算専門スタッフのフルタイム雇用は負担が大きいため、この削減は大きなメリットとなります。
例えば、100人規模の会社で給与計算の担当者を雇用する場合、2～3年の経験のある方を採用するとなれば、年収は約400万～550万円前後となるでしょう。また、この人材を採用する場合、採用のための広告費も発生します。仮に、マイナビやリクナビのような大手求人媒体に広告を掲載して採用する場合、50万～150万円くらいの費用が掛かると想定されます。
したがって、一人採用して、給与計算を任せるとなると、下記のようになります。
担当者を1名採用する場合の費用（例：社員数100名の場合）
初期費（採用費）50万～150万 ＋ 年間費（年収）400万～450万
これに対し、給与計算代行会社に依頼した場合は下記のようになります。
給与計算アウトソーシング企業に委託する場合の費用（例：社員数100名の場合）
初期費 90万～ ＋ 年間費 162万～
※ピタット給与の100名の場合の料金を参照
上記のことから分かるように、給与計算代行企業に委託した場合は、初期日で60万円ほど、年間の費用では238万～288万円ほどのコストカットができる可能性があります。
もちろん、給与計算担当者を採用した場合、業務量的に空いている時間で他の業務を任せることが可能なため、上記の金額の差は純粋な給与計算業務だけの費用の差とは言えません。
しかし逆に考えれば、給与業務以外の業務の適正も考慮して採用する必要が出てくるということですので、採用時の、給与の守秘義務を守れるかなどの適正判断も必要になります。
加えて、退職のリスクや、引継ぎ期間のコスト、産休や育休時の対応なども考慮しなければなりません。この点も給与計算代行会社にアウトソーシングするか、自社で担当者を採用するかを考える上で重要なポイントとなるでしょう。
日本における給与計算担当者の年収の目安：
- 未経験者：年収約300万円〜400万円
- 経験者（数年の経験あり）：年収約400万円〜550万円
- 管理職や専門性の高いポジション：年収約550万円〜700万円以上
東京都内や大企業の場合、これより高い年収が設定されることもあります。また、専門性や資格（例えば、社会保険労務士の資格）がある場合、さらに高い年収を期待できることもあります。
具体的な年収設定については、業界の相場や、自社の給与体系と照らし合わせて検討すると良いでしょう。
システム維持費の削減
給与計算に必要な専用ソフトウェアやシステムの導入と維持には高額なコストがかかります。これには、定期的なアップデートやシステムの保守も含まれます。給与計算代行を利用する場合、企業はこれらのコストを削減できます。もちろん、これらの費用はサービス利用ないに一定の金額として含まれている場合がほとんどですが、代行会社では、一つの企業でこれらを構築するよりも効率的にコストを削減できている為、結果的に企業が支払うコストの削減にもつながっています。したがって、これらの費用を他のITリソース資金などに活用することが可能になるでしょう。
遵法リスクに関連するコストの削減
給与計算に関連する法規制は複雑で、違反すると重い罰金や訴訟に直面するリスクがあります。給与計算代行業者は法規制に精通しており、これらのリスクを最小限に抑えることができます。したがって、法的違反による罰金や訴訟費用などの予期せぬ出費を防ぐことが可能となります。
給与計算代行会社選びで重視すべきセキュリティ資格
給与計算代行サービスの選定において、セキュリティレベルの確認は最重要課題です。特に従業員の個人情報を含む機密データを取り扱うため、代行会社のセキュリティ資格や認証の確認は不可欠です。以下に、代行会社選定の際に参考となる主要なセキュリティ資格を紹介いたします。
ISMS（情報セキュリティマネジメントシステム）認証
ISMS認証は、組織が情報セキュリティの管理体制を整備し、適切に運用していることを証明する国際的な規格です。この認証を持つ給与計算代行会社は、情報セキュリティに対する高い意識と実践的な対策を講じていることが保証されます。特にISO/IEC 27001は、情報セキュリティに関する国際規格であり、広く認知されています。
プライバシーマーク
プライバシーマークは、個人情報の保護体制が適切に構築されていることを証明する日本独自の認証マークです。プライバシーマークを取得している給与計算代行会社は、個人情報の取り扱いに関して厳格な基準を満たしており、信頼性の高いサービスを提供しています。
給与計算代行会社を選ぶ際には、上記のような認証を持つ会社を選ぶことが、データの安全と信頼性の保証につながります。セキュリティは単なるコンプライアンスの問題ではなく、企業運営の根幹をなす重要な要素です。したがって、これらの資格を有する代行会社を選ぶことで、安心して業務を委託できるでしょう。
給与計算代行Q&A
Question１：
給与計算代行の相場はどのくらいですか？
Answer１：
給与計算代行の相場は企業規模によって異なります。企業規模ごとの相場をお伝えいたします。
ただし、これはあくまで一般的なガイドラインであり、具体的な料金は給与計算代行会社毎に異なりますし、どのようなオプションサービスをつけるかによっても異なってきます。
- 10人以下の企業:
- 月額で約20,000円からスタートすることが多く、給与計算の基本的な手続きをカバーします。ただし、追加サービスや複雑な計算が必要な場合は、それ以上の費用がかかることもあります。
- 11～30人の企業:
- この規模の企業では、月額30,000円から50,000円の範囲で費用が設定されることが一般的です。従業員数が増えるにつれて、給与計算の複雑性も高まるため、料金が高くなる傾向にあります。
- 50人前後の企業:
- 月額で約100,000円から150,000円程度が相場とされています。従業員が多いため、給与計算だけでなく、勤怠管理や社会保険の手続きなどの追加業務も必要になることが多いようです。
- 100人前後の企業:
- 大規模な企業では、月額200,000円以上が相場となることが多いようです。多くの従業員を抱える企業では、給与計算のほかにも多岐にわたる人事労務管理が求められるため、料金もそれに比例して高くなります。
これらの情報は、給与計算代行の一般的な費用感を把握するためのもので、詳細や具体的な見積もりはそれぞれの給与計算代行企業に直接問い合わせください。
弊社アックスコンサルティングが提供する給与計算代行の費用に関しましては、こちらをご確認ください。
Question２：
給料計算はどこに頼めばいいですか？
Answer２：
給与計算代行サービス企業や社会保険労務士事務所に頼むのが一般的です。
従業員数が30名くらいまでであれば、社会保険労務士事務所に頼まれるケースが比較的に多いでしょう。
従業員数が50名を超えてくると、給与計算代行の専門チームを持っている比較的に規模の大きい社会保険労務士法人か、給与計算代行サービスを提供している一般企業に委託するケースが多くなります。一般企業の場合社会保険の申請代行は行うことができないので、社会保険労務士事務所と提携してサービスを提供してくれるかも重要な確認ポイントとなります。
まとめ
給与計算代行は、人事部門の効率化、コンプライアンスの確保、コスト削減、データセキュリティの向上といった多くの利点を企業にもたらします。中小企業から大企業に至るまで、多くの組織がこのサービスの導入によって業務の効率化とリソースの最適化を実現しています。給与計算は単なる数値の計算以上のものであり、従業員と企業の間の信頼関係を築くためにも重要なプロセスです。このため、専門的な知識と技術を持つ代行業者にその重要な役割を任せることは、多くの企業にとって賢明な選択と言えるでしょう。